平成22年 「年頭の辞」

国土交通省自動車交通局長   桝 野 龍 二

 
 皆様、新年あけましておめでとうございます。
 平成22年の新春を迎え、謹んで年頭のご挨拶を申し上げます。

 最近の我が国の社会・経済情勢に目を向けますと、平成21年度前半の実質経済成長率は2四半期連続のプラス成長となるなど景気は最悪期を脱しつつあるものの、失業率が高水準で推移するなど依然として厳しい状況にあります。このような経済状況の下、運輸業界にあっても非常に厳しい経営環境が続いているものと認識しておりますが、自動車交通関連の事業に携わっておられる皆様方におかれましては、多様化・複雑化する利用者ニーズに対応したサービスを提供するとともに、安全確保や環境保全に対して弛まぬご努力をされておられるところであり、心から敬意を表する次第です。
 私どもといたしましては、自動車交通は国民や社会の安全・安心の確保、低炭素社会の実現に不可欠な極めて公共性の高い性格を有しているとの認識の下、経済社会情勢の変化や利用者の多様なニーズへの対応、安定的なサービスの提供体制の確保、低公害化の推進等自動車交通行政を巡る様々な課題に対応し、国民の方々や自動車交通関係業務に携わる皆様方の期待に応えられるよう、本省、地方運輸局、沖縄総合事務局、運輸支局が一体となって、以下のような施策を中心に、政務3役のご指示をいただきながら取り組んで参ります。

 第一は、地域の活性化・再生のための地域公共交通の実現です。
 我が国では、多くの地方で人口の減少により、学校、病院等暮らしを支える施設の利用が不便になるなど、地域の活力が弱まり、さらに人口が減るという悪循環に陥っており、地域間格差の問題も生じています。通学、通院など地域の生活交通を支えるバスについても、輸送需要の減少傾向が続いており、極めて厳しい運営状況にあり、一部の地域においては、バス事業の経営破綻や路線撤退も生じています。現在、国土交通省では、将来の交通体系のあるべき姿、交通にかかる基本的な法制度や支援措置のあり方等についての検討を行っているところです。
 このような中、昨年11月に行われた行政刷新会議の事業仕分けにおいて、予算の一部廃止、見直しを含む厳しい評価を頂きましたが、地域の生活交通の維持・活性化は非常に重要な課題であることから、引き続き、限られた財源の中でより効果的かつ効率的な予算の執行に努め、地方運輸局等とともに、地域公共交通の活性化・再生を積極的に推進するとともに、地域社会を支えるバス産業のさらなる発展を図って参りたいと考えています。
 また、地方バス路線の維持対策については、21年度補正予算に経済危機対策として、地方バス路線において使用する車両を最新車両へ更新し、生活交通の維持及び低炭素社会の実現を図るため、車両購入費補助の増額(4億9千5百万円)が確保され、22年度当初予算案においては、事業仕分けの評価を踏まえた上で所要額が閣議決定されたところであり、これらの予算を活用し、引き続き地域の生活の足として重要な役割を担っている地方バス路線の維持を図っていきたいと考えています。
 タクシーについては、一昨年12月に交通政策審議会より、利用者のニーズに合致したサービスの提供、悪質事業者への対策、運賃規制のあり方、供給過剰地域における対策等が示された答申をとりまとめていただきましたが、その答申に基づき法制度上の措置が必要な部分を規定したタクシー適正化・活性化法が昨年の通常国会で衆参ともに全会一致で成立しました。タクシー適正化・活性化法が昨年10月に施行となったことを受け、現在全国142の特定地域において、地域の関係者の方々のご協力も賜りながらタクシー事業の適正化・活性化のための協議が進捗しているところであり、今後具体的な取組みが進められることを期待しております。私どもといたしましても、地方運輸局等による協議会への参加を通じ、各地域におけるタクシー事業の適正化・活性化に関する取組みを推進して参ります。
 また、タクシー業務適正化特別措置法に基づく適正化事業については、交通政策審議会において、現在、東京、大阪のタクシーセンターにおいて実施していますが、それ以外の地域においても積極的に取り組むことが求められるとの答申を踏まえ、横浜地域を特定指定地域に追加する改正を本年4月1日から施行する予定であり、引き続き、輸送の安全及び利用者利便の向上が図られるよう努めて参ります。

 第二に国民経済を支えるトラック輸送の適切な発展の確保です。
 トラック輸送は、トンキロベースで国内物流の約6割、トンベースでは約9割を占めており、我が国の経済と人々の暮らしを支えている大変重要な産業です。昨今では経済のグローバル化に伴い、国際物流の強化が重要な課題となっておりますが、これも力強く安定的なトラック輸送という国内物流の裏付けがあってはじめて実現するものであり、我が国の国際競争力の向上のためにもトラックの果たす役割は極めて大きいものと考えられます。
 一方、このように重要な産業でありながら、その担い手のほとんどは中小零細の事業者の方々が多く、トラックを取り巻く経営環境を見ますと、ここ数年異常なまでに高騰した軽油価格が落ち着きを取り戻しかけた矢先に、一昨年秋からの世界的な景気後退の中で荷動きが急激に減少し、回復の兆しは見えつつあるとの一部評価があるものの、軽油価格の再上昇の気配もあり、依然として厳しい状況にあります。
 しかしながら、このような状況下においても安全対策、環境対策、安定輸送の確保等は揺るがすことのできない課題であり、事業者の皆様方には不断に対応していくことを期待したいと考えているところです。私どももこれらの課題をはじめ適正取引の確保、公正な競争環境の整備等、トラック輸送をめぐる諸課題に対応し、国民の皆様方の期待に応えられるよう、関係者と連携しつつ取り組んで参ります。
 一昨年秋に成立した平成20年度第1次補正予算に引き続き、昨年3月に、第2次補正予算が成立し、燃費改善、事業の構造改善等を目指すトラック事業者の取組みに対してその経費の一部を支援する中小トラック事業者構造改善支援事業(国費150億)を創設いたしました。当該事業は21年度に繰越の上、4月の経済対策において要件を拡大し公募したところ、15,000件を超える応募がありました。これに平成21年度第1次補正予算の措置である「荷主等とのパートナーシップによる構造改善実証実験事業」及び「国際海上コンテナ陸上輸送高度化支援事業」をあわせ、中小トラック事業者の支援を着実に実施して参ります。また、12月にとりまとめられた第2次補正予算においては、環境性能の高い自動車の購入支援(いわゆるエコカー補助)の本年9月までの延長(予算額約305億円)が盛り込まれたところであり、こうした支援措置も活用しながら地球温暖化対策と景気回復の両立に努めて参ります。
 さらに、トラック輸送適正取引推進パートナーシップ会議の枠組みを今後とも活用し、荷主とトラック運送事業者、元請事業者と下請事業者の良好なパートナーシップを構築することにより事業者間の適正取引をさらに推進して参ります。
 安全の確保や環境問題への対応等トラック輸送をめぐる課題は山積しておりますが、本年も、時代のニーズを的確にとらえた施策を講ずることにより、力強く安定したトラック輸送の実現に向けて取り組んで参ります。

 第三に自動車安全対策の推進です。
 交通事故の発生については、交通事故全体でみると、平成16年をピークに事故件数が年々減少し、死者数についても近年着実に減少しています。
 しかしながら、事業用自動車については、事故件数・死者数ともに、自家用自動車に比べて減少の歩みが鈍い状況です。また、酒酔い運転等の社会的影響の大きな事案についても、自家用自動車に比べて減少幅が小さいなど、憂慮すべき状況となっています。
 このような状況を踏まえ、昨年3月に「今後10年間で事業用自動車の死者数・人身事故件数を半減」、「飲酒運転ゼロ」という目標設定を盛り込んだ「事業用自動車総合安全プラン2009」を策定し、本プランに基づき、メールマガジン「事業用自動車安全通信」の創設、監査方針・行政処分基準の強化、安全マネジメント評価対象事業者の拡大及び第三者機関による安全マネジメント評価の実施等のほか、事故速報等の報告範囲の拡大等を内容とする自動車報告規則の改正などを実施して参りました。本年も点呼時におけるアルコールチェッカーの義務付けなど当面講ずべき施策を着実に進めていくほか、本プランの目標を確実に達成するため、PDCAサイクルに沿った定期的・継続的なチェックを進めて参りたいと考えております。自動車交通局に設置されている「自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会」におきましては、平成20年度より、従来からの取り組みに加え「社会的影響の大きい重大事故」11事例についての要因分析を実施したところでありますが、平成21年度以降におきましても引き続き社会的影響の大きい個別の重大事故事例の要因分析を実施していくことで、同検討会の機能強化を図りつつ、事故の調査・分析体制を充実させていくこととしております。また、昨年3月及び9月に東名高速道路で発生したバス火災事故につきましては、「自動車運送事業に係る交通事故要因分析検討会」の下に設置した「東名高速道路で発生したジェイアールバス関東株式会社及び株式会社ローレル観光バスのバス火災事故に関する調査小委員会」において、火災事故の原因究明を進めてまいります。トラック事業に係る事故におきましては、特に、コンテナトレーラーの横転等に係る事故が、近年、年間10〜20件程度発生しており、中でも国際海上コンテナに係る事故は、特に被害が甚大となる傾向にあります。このため、政務3役のご指示の下、官民関係者によりさらなる安全対策を検討するための「国際海上コンテナの陸上輸送における安全対策検討会議」を設置し、去る12月4日に第1回会議を開催したところであります。国土交通省としては、本会議での議論も踏まえつつ、痛ましい事故の発生を確実に防ぐための、さらなる安全対策を検討して参ります。
 自動車検査につきましては、画像取得・3次元測定装置等を導入・運用をすすめており、今後ともIT化された検査情報の活用等、検査の高度化に取り組んで参ります。
 本年も自動車点検整備推進運動を実施して点検整備の励行を促進するとともに不正改造車を排除する運動を全国的に実施してその排除を図って参ります。また、認証を受けないで自動車の分解整備を行っている未認証事業者に対しては、今後もより一層厳正に対処して参ります。
 このような課題に取組み検査の質を向上しつつ、検査場における検査機器の老朽更新を確実に実施していく他、検査結果の情報提供等受検者サービス向上に取り組んでいくこととしております。
 自動車のリコールに関しましては、自動車メーカーによるリコールに係る不正行為の防止対策として、不具合情報の収集の強化、欠陥車関連業務の監査の強化、技術的検証体制を順次強化してきており、本年も引き続き着実に実施して参ります。また、学識経験者や自動車ユーザー等が参画するリコール検討会のとりまとめを踏まえ、使用過程の自動車の安全の確保及び環境保全のためのユーザーへの情報提供の充実など必要な方策の実現に取り組んで参ります。
 さらに、平成18年に車両の予防安全対策の普及拡大等により、平成22年時点において死者数を平成11年比で2,000人削減すること等の目標を掲げ、取り組んで参りましたが、本年はこの目標年に当たります。この目標達成のため、ASV(先進安全自動車)等の予防安全技術の普及促進、交通事故時の衝突被害軽減対策の充実、大型車の安全対策の推進に加え、自動車やチャイルドシートの安全性能を評価する自動車アセスメント等に取り組んで参ります。
 具体的には、大型車の衝突被害軽減ブレーキ、ふらつき警報等の普及促進のほか、ハイブリッド車等の静音性対策に取り組むとともに、自動車やチャイルドシートの安全性能を評価する自動車アセスメントについては、安全基準の強化・拡充、ASV技術の普及促進のための施策と連携を図りつつ、プログラムの改善に取り組んで参ります。

 第四は、自動車の環境対策の推進です。
 昨年は、9月に鳩山政権が発足し、CO2削減量を2020年までに90年比で25%の削減目標が掲げられたところであり、当局としても、運輸部門の約9割のCO2排出量を占める自動車からの排出削減対策に積極的に取り組んで参ります。
 具体的には、省エネ法に基づきトップランナー方式により設定した平成27年度燃費基準を目標として、自動車製作者の技術開発を促進するとともに、燃費基準達成車が普及するよう、自動車燃費の評価・公表制度を引き続き運用して参ります。また、自動車からの窒素酸化物(NOx)及び粒子状物質(PM)の排出削減のため、ディーゼル車に対する平成21・22年規制(ポスト新長期排出ガス規制)を適切に実施するとともに、ディーゼル特殊自動車に対する平成23年規制を導入する予定です。
 さらに、予算、税制上の措置を講ずることによりCNG自動車やハイブリッド自動車等の導入促進を図って参ります。
 また、予算面では、環境対策と景気対策を効果的に実現するために平成21年度第1次補正予算により実施している事業用車両の環境対応車への買い換え・購入に対する補助制度については、当初の予算額を上回る申請をいただいたところですが、この度、「明日の安心と成長のための緊急経済対策」により、本年9月まで制度を延長することとし、第2次補正予算案に盛り込んでおります。
 税制面では、昨年4月からいわゆるエコカー減税により環境性能に優れた自動車に対して自動車重量税及び自動車取得税の減免措置が実施されましたが、平成22年度の税制改正では、環境負荷の小さい自動車に係る自動車税の特例措置(自動車税のグリーン化)について、対象となる自動車を一部見直した上で、その適用期限を延長するなど、所要の措置を講じております。
 中長期的な視点に立った、地球環境問題、大気汚染問題への対応については、実証走行試験を実施する等により既存の大型ディーゼル車に代替する次世代低公害車の開発・実用化の取組みを進める他、都市・地域整備局と連携して、電気自動車を初めとした環境対応車を活用したまちづくりについての取組みを進めて参ります。
 

 第五に、自動車の基準の国際調和及び認証の相互承認の推進です。
 安全で環境性能の高い自動車を早期・安価に普及させるため、自動車の安全・環境基準の国際調和を推進するとともに、その調和活動を通じ、日本の新技術を国際的に普及させていくための積極的な提案を行って参ります。
 加えて、自動車産業のグローバル化が進展した現在、国内外で車両の安全・環境対策を効果的かつ効率的に実施していくためには、日本発イノベーションの世界的な普及も併せて考慮することが不可欠であると考えており、国連において、最先端の技術に関する情報を交換し新技術に係るガイドライン等を策定するための活動に積極的に取組み、国際基準の策定に貢献していく予定です。
 また、国連において、国際的な車両型式認証制度の構築に資する議論開始が必要であると考えており、現在、そのための提案の準備を進めているところです。
 さらに、中国・インドをはじめとしたアジア諸国の国連における自動車基準の調和に関する活動の参加促進を支援していくことも安全で環境性能の高い自動車を早期に普及させるという観点から、非常に重要であると考えており、今後もより一層アジア諸国との連携を深めていく予定です。なお、型式指定審査について、引き続き、国連の車両等の型式認定相互承認協定(1958年協定)に基づく相互承認を確実に実施して参ります。

 第六は、安心な「くるま社会」の基盤づくりの推進です。
 自動車保有台数は、現在、約8千万台であり、「くるま社会」の更なる発展のための基盤づくりが重要になっております。この点で、自動車の登録制度に基づき国が保有している登録情報は、自動車に関する正確かつ網羅的なデータベースであり、「くるま社会」を支える基礎的な情報インフラとして機能しています。
 こうした情報インフラを活用した自動車登録情報の電子提供制度につきましては、自動車所有者確認、売買契約関係手続き確認、登録・検査関係手続きの確認などのため、リース・信販、保険、自動車販売、整備など各方面の自動車関係ユーザーから情報提供のご利用をいただいています。今後も、利便性の向上に資するものとして、十分な個人情報保護対策を講じつつ本制度の周知及び適切な利用拡大に努めて参ります。
 ナンバープレートカバーに関する検討会については、自動車関係者や取り締まり当局からもこれを疑問視する意見が寄せられていたのを受け、検討会を立ち上げ、実施試験、パブリックコメントの募集を行って参りましたが、検討会の最終報告として、プレートカバーは全面禁止が適当、との結論を得ました。今後、具体的精査を経て22年度中の実施を目指して参りたいと考えております。
 国内新車販売につきましては、景気低迷・世界的金融危機・若者の車離れなどの様々な影響を受け、販売台数が減少傾向にあるところです。しかしながら、今後も自動車が生活・業務の足として果たすべく社会的役割は重要であり、このため、自動車取得税、自動車重量税について免税を含む特別措置(いわゆるエコカー減税)及び環境に着目したグリーン税制を活用して自動車市場の活性化を図り、自動車への愛着を再認識することに繋がればと、期待しております。
 また、自動車の登録手続ワンストップサービスについては、大阪35.2%、東京22.6%となるなど、関係各位のご協力のもと利用が早急に拡大しております。
 今後とも、関係機関と連携・協力を強化し、自動車ディーラー等利用者の皆様の要望を十分に踏まえ、利便性が実感できるよう、改善に努めて参ります。
 次に、自動車損害賠償保障制度については、平成18年の「今後の自動車損害賠償保障制度のあり方に係る懇談会」の報告を踏まえ、被害者救済対策の充実に努めているところです。中でも昨年は、「親亡き後問題」について、昨年4月に「自動車事故による重度後遺障害者の「親亡き後」に関する調査」報告書を公表し、これに基づき、自動車事故による重度後遺障害者の「親亡き後」の生活に備えるために、介護者が必要とする情報の入手を容易にし、介護者、関係者間での情報の交換や共有を行うことが可能となるような情報網作りを目指し、「自動車事故による重度後遺障害者のための情報サポートネットワーク」構築に取り組んでいるところであり、また、本年4月1日より、保険法が施行され、自賠責保険につきましても、保険金等の請求や政府保障事業に対する請求の時効が2年から3年に延長されるなど、保険契約者の保護が増進されました。これも含め、引き続き自動車事故被害者の保護及び保障の改善を図って参ります。
 
 以上、年頭に当たり、本年推進していく自動車交通行政の重点施策を申し述べて参りましたが、自動車交通局といたしましては、本年も国民及び関係者の方々や社会の期待・要請を的確に把握し、それに十分に応えられるように、政務3役のご指示をいただきながら、地方運輸局等とともに、関係する諸機関・団体との連携を一層密にしつつ、全力を尽くす所存です。本年も自動車交通行政の推進に対しまして、より一層のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
 最後になりましたが、自動車交通に関連する事業に携われておられる皆様方が、本年もまたそれぞれの分野において大いにご活躍され、利用者や国民・社会の高い評価と広い支持を得て、一層の発展を遂げられますことを祈念いたしまして、年頭の挨拶とさせていただきます。